Dr Svetlana Borovkova
このインサイト・シリーズでは、Probability & Partners と共同で金融市場におけるメディア・センチメント、生成 AI の進歩などのトピックを取り上げ、現代的な考察とインサイトを解説します。
- シリーズの最初となる本インサイトでは、主要株価指数を取り巻くニュース・センチメントに焦点を当てる
- 2023 年、特に英国、EU、米国市場で、マクロ経済と金融政策のイベントに対してニュース・センチメントはどのように変化したのか
- LSEG の指標は、重要性、新規性、センチメントなどの定量的なニュース特性を考慮し、センチメントのトレンドに関するインサイトを提供。これらのシグナルを資産ユニバース全体で集約し、FTSE 100、S&P 500、STOXX 600、NASDAQ 100 などの主要株式市場のセンチメントを計測する
企業のセンチメント・モニタリングは、投資戦略のリスク低減とリターン向上の両面で、独自の価値を頻繁に発揮していることが窺えます。コロナ禍の初期には、新型コロナウイルスが重要な話題となる数週間前に、すべての主要株式市場でセンチメントが一貫して低下し、最終的に株式市場が急落しました。センチメントは最長で 4 週間も前から低下していたことから、タイムリーかつ有益な警告指標となりました。
センチメントの強みは、このような大幅な下落を効果的に示す能力にあります。しかし、株式市場のセンチメントは、インフレや金融政策の発表、経済成長の見通し、地政学的緊張、株式市場パフォーマンスに影響を及ぼす関連情報など、他にもさまざまなイベントを反映します。2023 年の地域市場センチメントや株式市場パフォーマンスを調査した結果、英国、欧州、米国のシナリオは大きく異なっていることが明らかになりました。
FTSE 100 に対するセンチメント
特に 2023 年はそのようなイベントが多く、インフレ、金利、経済成長をめぐる懸念が景気とメディア双方を支配しました。こうした背景にもかかわらず、英国株式市場 (FTSE 100) を取り巻くセンチメントは総じてポジティブな水準を維持しました。しかし、2023 年は一年を通じてセンチメントの大幅な変動が観測されており、 6 月と 9 月には特に顕著な動きが見られました。2023 年 6 月には一連のネガティブな経済ニュースが英国を襲い、メディアでは予想を上回る高インフレと経済成長の低迷が注目されました。予想インフレ率が 5% だったにもかかわらず、実際の数値は 8.7% と大きく上回り、さらに、企業の第 1 四半期決算は、英国経済の出足が鈍いことを示し、景気後退リスクをめぐる懸念が高まりました。主要報道機関がこうした問題を認識したのは 6 月末だったのに対し、LSEG はその 2 週間前から株式市場関連センチメントの低下を観測していました。具体的にセンチメントが最も大幅に低下したのは 6 月 19 日と 26 日のことでしたが、低下は 6 月 15 日からすでに始まっており、この頃から、高インフレ、英国債利回りの上昇、長期停滞、倒産企業の増加などに関する悲観的なニュースが少しずつ報道されるようになりました。全体として、インフレの抑制と正確な予測が不可能であることが株式市場のセンチメントに大きな影響を与えたようです。
9 月 15 日、予想を上回るインフレ率の鈍化を受けて、英国株式市場のセンチメントは 2023 年で最大の上昇を示したものの、この勢いは長く続かず、9 月 20 日には最大の下げ幅を記録しました。これに続いて、予想経済成長率はわずか 0.1% に低下し、2023 年末までに英国が景気後退に陥る懸念が生じました (英国では年末までに景気後退入りが実際に確認され、懸念が現実のものとなっています)。
FTSE のセンチメント
STOXX 600 に対するセンチメント
英国とは対照的に、2023 年の欧州連合 (EU) 株式市場 (STOXX 600) を取り巻くセンチメントは、経済・メディア両方のセンチメントを支配したロシア・ウクライナ紛争に起因する EU 経済の大幅な縮小に大きく影響され、あまりポジティブではありませんでした。センチメントが最も顕著に変動したのはやはり 9 月で、1 日で -20%~+50% と非常に大幅な変動が生じました。このような劇的な変動は通常、株式市場の現状と今後に関してメディアにコンセンサスが存在しないことを表します。EU はその典型で、スペインなどの南欧諸国が全体的にポジティブなセンチメントを示す一方、北欧諸国は苦戦を強いられ、加盟国間でセンチメントが著しく異なっていた模様です。9 月の EU 経済ニュースは総じて悲観的で、ネガティブな見通し、経済成長の停滞、経済予測の下方修正が報じられ、これらの動きは、EU 株式市場センチメントの大幅な低下とボラティリティに適切に反映されました (ただし、その後の予想を上回る決算発表を受けて部分的に若干緩和されています) 。
STOXX のセンチメント
S&P 500 に対するセンチメント
米国株式市場 (S&P 500) のセンチメント分析から、興味深いインサイトが得られます。最も顕著なセンチメントの悪化は、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻に端を発した 2023 年 3 月の米国銀行業界の混乱直後に起こりました。興味深いことに、センチメントの悪化は専ら金融セクターに限定されていたため、S&P 500 自体に影響はありませんでした。クレディ・スイスをめぐる混乱を受けて、3 月末にはEU株式市場のセンチメントにも同様の落ち込みが見られました。その後、米国株式市場センチメントは、米連邦準備制度理事会 (FRB) の利上げと債務上限に関する議会合意に伴い、6 月頃に改善しました。しかし、6 月下旬から 7 月にかけて、英国と同様に、米国のインフレ率をめぐる懸念 (公表値のピークである 9% に到達) が株式市場センチメントを支配 (および抑圧) しました。
10 月には、おそらくイスラエルとパレスチナの紛争が勃発したことを受けて、再びセンチメントの低下が見られたものの英国と EU のセンチメントにこの影響は反映されませんでした。その数週間後、大方の予想どおりに S&P 500 は下落しました。10 月末にかけて金利がピークに達し、ポジティブなマクロ経済指標が発表されました。これにより当初、株式市場センチメントが押し上げられ、その後、S&P 500 自体が上昇しました。このポジティブなトレンドは年末にかけて続き、各メディア・レポートでは力強い需要指標と堅調な GDP 予想が強調されました。しかし、2023 年末には、米国が景気後退に陥る可能性が懸念され、センチメントは反転しました。ところが、S&P 500 は 9% 上昇して年末を迎え、センチメント低下が S&P 500 の下落に相関しないという異例の事態となりました。このアノマリーに対しては、さらなる調査を行い、根本的なダイナミクスを理解する必要があります。
S&P 500 のセンチメントと値動き
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