FTSE Russell Insights

FTSE 世界国債インデックスにおける 8 つの興味深いトピック

Nelson Huang

APAC Head of Fixed Income and Multi Asset Product and Research

国債は世界最大の証券市場です。しかし、そのパフォーマンスの測定はどのようにすればよいのでしょうか。また、どの市場、どの通貨、どの銘柄を含めば良いのでしょうか?

  • FTSE 世界国債インデックス (WGBI) は 1984 年末を基準として、投資適格国債のパフォーマンスを測定
  • この指数が対象とする市場規模は設定以来 25 倍に成長し、現在では 24 カ国の国債が適格
  • 大きな市場の変化を反映して、WGBI における中国国債の市場ウェイトは日本国債を上回る見込み

FTSE 世界国債インデックス (WGBI) の設計者は、40 年前にこれらの難しい疑問に答えようと試みました。彼らが作成したベンチマークは、世界中の投資家、トレーダー、市場アナリストの間で瞬く間に受け入れられました。

債券インデックスは現在、現代の金融の中核であり、投資家向けの一連の財務指標、アクティブおよびパッシブのポートフォリオ・マネージャー向けのベンチマークとして、より広範な市場に投資する方法を提供しています。

FTSE WGBI は、20 カ国以上のさまざまな通貨建ての固定利付、現地通貨建て、投資適格国債のパフォーマンスを測定していますが、ここでは WGBI のあまり知られていないものの興味深い 8 つの事実を紹介します (もっとも、WGBI に精通した日本のユーザーには既知のトピックかもしれません)。

  1. 40周年を迎える WGBI

WGBI の基準日は 1984 年 12 月 31 日で、偶然にもFTSE 100、Russell 1000、Russell 2000 も 1984 年に開始されています。このため、これらの一連のベンチマークは 2024 年に 40 年もの履歴データを提供しています。

FTSE 100 は、もともと「SE 100」(Stock Exchange 100) と呼ばれ、1984 年 1 月 3 日にロンドン証券取引所によって設定され、すぐに最もよく知られた英国株価指数なりました[1]。また、米国の大型株と小型株の指数である Russell 1000 と Russell 2000 は、1984 年 1 月 1 日にフランク・ラッセル社によって開始されました[2] (Frank Russell の指数ビジネスは後に LSEG に買収され FTSE Russell となりました)。

最後に、アメリカの投資銀行ソロモン・ブラザーズは 1984 年 12 月 31 日を基準日として 1986 年から WGBI の公表を開始しました。ソロモン・ブラザーズ世界国債インデックスは、そのブランドがソロモン・スミス・バーニーを経て (1998 年のソロモン ブラザーズとシティグループの合併後) にシティとなり、2017 年にFTSE Russell がシティの債券インデックス事業を引き継いだことで、2018 年からFTSE WGBI へとブランドが変更されました。

2. FTSE WGBI の市場規模は設定以来 25 倍に

2024 年 6 月末時点で、WGBI には 24 カ国の国債 (16通貨) が含まれ、額面総額は約 30 兆米ドルに達しています。 

WGBI が設定された時点では、構成国は 9 カ国 (米国、日本、英国、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、スイス、オランダ) のみで、額面総額はわずか 1.15 兆米ドルでした。図 1 に示すように、WGBI が対象とする資産は、過去 40 年間で名目ベースで約 25 倍の規模に拡大しています。

図 1. WGBI の過去の総残高 (1985年~2024年、兆米ドル)

figure 1 shows WGBI has grown about 25 times in nominal terms in the last 40 years.

出所: FTSE Russell、1984 年 12 月 31 日から 2024 年 6 月 30 日までの月次データ。重要な法的開示については末尾をご覧ください。 

3. WGBI の平均信用格付けは低下

WGBI は 24 の国債市場から構成されており、すべての構成銘柄が投資適格 (つまり、S&P による BBB- あるいは Moody's による Baa3 の格付け以上) が必要です。国債は従来から低リスク資産と考えられているが、WGBIは その中でもクオリティの高い国債市場へのエクスポージャーを提供しています。

しかしながら、2000 年以降、主要国における国債の信用力は全体的に低下しており、これが WGBI にも反映されています。図2 が示すように、2000年以前、WGBI は AAA の指数とみなされていましたが、2009 年から 2011 年における欧州債務危機の間、いくつかの欧州の国債は AAA 格付けを失いました。日本と米国でも債務が増大し、それぞれ 2001 年と 2011 年に S&P から AAA 格付けを失っています。このように、これらの大規模な国債市場の格下げは、WGBI 全体の格付けの低下につながりました。2024 年 7 月現在、WGBI で AAA 格付けを維持しているのは僅かに 11% のみで、大部分 (57%) は AA 格となっています。果たして、これは WGBI が以前ほど安全ではないことを意味するのでしょうか。この点について、市場ではまだコンセンサスが得られていないようです。

図2. WGBI の信用格付けの内訳履歴 (2000年~2024年)

figure 2 shows Before 2000, WGBI was perceived as an AAA index.

出所: FTSE Russell、2000 年 3 月 31 日から 2024 年 6 月 30 日までの月次データ。重要な法的開示については末尾をご覧ください。

4. 米ドルの優位性は低下し、その後再び上昇

欧州通貨がユーロとなってから、主要 5 通貨 (米ドル、日本円、ユーロ、英国ポンド、および最近では中国元) が指数全体の 93% ~ 95% を占めています。WGBI には 16 通貨が含まれていますが、各国の国債市場の規模が均一ではないため、通貨エクスポージャーの観点では分散化されたベンチマークとはなっていません。

図3 は、1990 年代以前は米国と日本が WGBI の約 70% を占めていたことを示しています。ユーロ発足以降は欧州国債が米国債市場に部分的に取って代わり、2000 年代初頭には約 30% のウェイトに達しました。

米国のサブプライム住宅ローン危機の際、WGBI の米ドル・エクスポージャーは最低水準に達し、WGBI のわずか 20% を占めるにとどまり、日本国債 (JGB) と欧州国債への配分はそれぞれ 30% と 40% に達しました。2012 年以降、ドルのウェイトは再び増加し、日本円のウェイトは呼応して減少しています。

図 3. WGBI の通貨別ウェイト履歴 (1985年~2024年) 

Figure 3 shows that before the 1990s, the US and Japan accounted for nearly 70% of WGBI.

出所: FTSE Russell, 1984 年 12 月末から 2024 年 6 月末までの月次データ、重要な法的開示については末尾をご覧ください。

5. 中国が WGBI で 2 番目に大きなウェイトに

日本国債 (JGB) はかつて WGBI の 3 分の 1 を占め、米国の債務が削減された時期には WGBI で最もウェイトの高い市場でしたが、2012 年以降はそのウェイトが縮小しています。2024 年 8 月現在、JGB の比重は約 10% で、過去最低となり、JGB のウェイトが縮小したことにはいくつかの理由があります。まず、過去 10 年間で日本円は米ドルに対して 50% 下落しています (図4参照)。

図 4. USD/JPY 為替レートの履歴 (2012年~2024年) 

figure 4 shows The shrinking of JGBs’ index footprint is down to several reasons. First, the Japanese yen has depreciated by 50% against the US dollar over the last decade .

出所: LSEG Workspace, 2012 年 7 月末から 2024 年 7 月 15 日までの週次データによる重要な法的開示については末尾をご覧ください。

第二に、中国国債は WGBI の 9.3% であるものの、同国はまだ段階的導入期間中であるため、指数のウェイトは引き続き上昇する見込みです。中国はすでに、WGBI で 3 番目に大きな国債市場となったものの、2 位の日本との差はわずか 0.6% で、中国国債の 36 カ月の段階的導入[3] が 2024 年 10 月に終了すると、中国は WGBI で 2 番目に大きな国債市場になる蓋然性が高まっています (図5参照)。

図 5. WGBI における中国の段階的組入れ状況


指数 債券種別 銘柄数 市場規模 指数におけるウェイト 段階
WGBI 国債 79 18 兆 CNY  9.30% 32/36

出所: FTSE Russell、2024 年 6 月末現在、 重要な法的開示については末尾をご覧ください。

 

figure 5 shows . As of now, 9.3% of the WGBI is in China, and it’s worth noting that China’s index weight will continue to rise because it is still in the phase-in period. Even though China is now the third-largest sovereign bond market in WGBI, with a weighting only 0.6% lower than second-place Japan, China is likely to become the second-largest sovereign market in WGBI when the 36-month phase-in of its bonds  concludes in October 2024

中国の段階的組み入れは 2021 年 11 月に開始され、その後 36 カ月間にわたってウェイトが引き上げられます。つまり、組入れ対象の債券の残高に N/36 の割合でインデックスに組み入れており、2024 年 10 月プロファイルでNが 36 となり段階的組入れが完了します。

第三に、日本国債の残高は、米国債や中国国債の増加に比べてわずかに減少しており、WGBI における日本の市場規模は、10 年前の 505 兆円から 465 兆円に減少しています。これは日銀の保有する日本国債の残高を発行額から控除しているためです。

他方、この 10 年間で、WGBI の米国債は名目ベースで 6 兆ドルから 12 兆ドルに倍増しています。また、同時期に中国も 5 兆人民元から 19 兆人民元へとほぼ 4 倍に増加しています。IMF によると、中国の政府債務対 GDP 比は 2​​024 年 4 月までに 80% に達し、米国は 120% に達する (図 6 参照) とされており、両国とも過去 20 年間で債務が著しく増加しています。

図 6. GDP 対比の債務残高

figure 5 shows . As of now, 9.3% of the WGBI is in China, and it’s worth noting that China’s index weight will continue to rise because it is still in the phase-in period. Even though China is now the third-largest sovereign bond market in WGBI, with a weighting only 0.6% lower than second-place Japan, China is likely to become the second-largest sovereign market in WGBI when the 36-month phase-in of its bonds  concludes in October 2024

出所: IMF’s World Economic Outlook April 2024. 重要な法的開示については末尾をご覧ください。

債務水準の上昇に懸念を持つ投資家は時価総額加重という債券インデックスのコンセプトに異議を唱え、彼らは、債務の多い市場へ配分を増やすのは良い戦略ではないと考えています。これに対応して FTSE では投資家のリスク許容度を満たすために、Debt Capacity WGBI、Climate WGBI、ESG WGBI など、いくつかのテーマ別国債ベンチマークを開発しています。

6. WGBI のリターンは 2021-23 年が最悪

WGBI は多通貨から構成されている国債ベンチマークであり、そのパフォーマンスは主に 3 つの要因、すなわち為替要因 (基準通貨で測定)、債券の元本リターン、およびインカム (クーポン) リターンを源泉としています。

過去にはキャッシュの再投資リターンも、WGBI の収益の要素でしたが、低金利の期間 (2009~2021年) では再投資リターンは僅少で、2022 年 11 月以降は、再投資リターンは勘案されていません。[4]

ただし、昨今に金利が再上昇している状況を考えると、再投資リターンには再検討の余地があります。インデックスの存在期間全体を通じて、WGBI の年率トータル・リターンは、ベース通貨 (すなわちドル、ユーロ、円、ポンド) によって異なるが、4.4% ~ 5.6% となりました (図 7 参照)。

図 7. WGBI の設定来リターン (年率換算)

基準通貨 リターン* 標準偏差*
米ドル 5.55 6.99
ユーロ 4.44 6.86
日本円 4.36 7.53
英ポンド 5.31 8.67

出所: FTSE World Government Bond Index (WGBI) のファクトシート、2024 年 6 月末現在、 重要な法的開示については末尾をご覧ください。 

しかし、過去 3 ~ 5 年の状況は世界的な金利上昇環境により WGBI は、米ドル、ユーロ、ポンド建てでマイナスの年間リターンを記録しました (図 8参照)。

実際、WGBI 連動の商品に投資した投資家は、指数の導入以来、最もパフォーマンスの悪い 3 年間を経験したことになります。例外は円ベースで為替ヘッジをしなかった投資家で、彼らは円が急落した時期に外債を保有することで、為替差益を得ています。

図 8. WGBI の過去1年、3 年、5 年の年率リターン

  USD EUR JPY GBP
  ヘッジなし ヘッジあり ヘッジなし ヘッジあり ヘッジなし ヘッジあり ヘッジなし ヘッジあり
YTD* -3.96 -0.57 -1.01 -1.35 9.58 -3.45 -3.15 -0.7
1 Year -0.63 2.75 1.15 0.93 10.59 -3.33 -0.06 2.27
3 Years -6.92 -2.65 -3.73 -4.48 5.34 -6.44 -4.12 -3.32
5 Years -3.20 -0.58 -2.02 -2.29 4.88 -3.44 -3.07 -1.24

*年率化していません

出所: FTSE World Government Bond Index (WGBI) のファクトシート、2024 年 6 月末現在、 重要な法的開示については末尾をご覧ください。 

7. 少し前は WGBI の多くの市場でマイナス金利だった

今では信じがたいことですが、WGBI が公表された直後、指数の加重平均利回りは 10% 近くありました。その後、利回りは徐々に低下し、2020 年 3 月に新型コロナウイルスのパンデミックが爆発的に拡大した際に過去最低を記録しています。

その後、2022 年 6 月、米国の消費者物価指数は前年比 9.1% 上昇し、それと連動して、米連邦準備制度理事会が目標金利を大幅に引き上げ、18カ月で 0% から 5.25% に引き上げ[5]、 これにより金利のトレンドが反転しました。

2024 年 7 月までに、WGBI の平均利回りは 3.6% に達し、2008 年以前と同水準となりました。振り返ってみると、2015 年から 2020 年にかけて、デフレへの恐怖から、いくつかの欧州国債と日本国債の利回りがマイナスだったことも信じがたいことです。つい最近のことであるのだが、遠い昔のことのように感じられるかもしれません。

図 9. WGBI における G7 諸国の利回り (1985年~2024年)

figure 9 shows that By July 2024, WGBI’s yield had reached 3.6%, a similar level to the pre-2008 period. Looking back, it is also hard to believe during the period of 2015 and 2020, the yields of several European sovereigns and JGBs were negative because of the fear of deflation. That was not such a long time ago, though it now feels like ancient history

出所: FTSE Russell, 1984 年 12 月末から 2024 年 6 月末までの月次データ、重要な法的開示については末尾をご覧ください。

8. WGBI に採用となるには格付け以外の要件もある[6]

WGBI の組入れ対象となるには、現地通貨建て国債が最低信用格付け要件を満たす必要がある。これに加えて、図10 に示されている市場規模および市場アクセシビリティ基準を満たさなければなりません。

これらの基準は、FTSE 債券国分類[7] プロセスの一環として、毎年 3 月と 9 月に半年ごとに評価されます。最低信用格付けを満たさなくなった市場は、次の月次リバランス時にインデックスから除外され、半年毎の国分類の見直しの結果、インデックスへの組み入れ変更に関する発表は、実施の詳細とともに、その後ただちに公表されます。

図 10. FTSE 世界国債インデックスの組入基準

FTSE世界国債インデックスの組入基準
通貨: AUD, CAD, CNY*, DKK, EUR, GBP, ILS, JPY, MXN, MYR, NOK, NZD, PLN, SEK, SGD, USD
最低残存期間: At least one year
史上最低規模:

採用基準 (新規): 500 億米ドル、400 億ユーロ、5 兆円
除外基準: 除外基準規模は採用基準規模の 1/2 すなわち、250 億米ドル、200 億ユーロ、2.5 兆円

 

最低残存額: 各市場により異なる
最低格付け基準: 採用基準 (新規): S&P のA- および ムーディーズの A3
除外基準: S&P のBBB- 格未満、かつムーディーズの Baa3 格未満
市場アクセシビリティ基: レベル2が必要
国分類フレームワークの詳細につきましては、 Fixed Income Country Classification | LSEG を参照

出所: FTSE Fixed Income Guide (lseg.com) (英語). 重要な法的開示については末尾をご覧ください。

上記の基準により構成国は変化してきました。

スイスは WGBI 開始時の構成国であると先に述べましたが、2018 年 9 月に市場規模基準を事由として、スイスは WGBI から除外されています。同国の除外は今回が初めてではなく、1992 年 10 月にも除外されており、1996 年 4 月に再組み入れとなりました。

ポルトガルは 2012 年 2 月に国債格下げにより WGBI から除外されたものの、格付け機関により A-/A3 に格上げされたため、2024 年 11 月から WGBI に再組み入れとなっています[8] 

2024 年 3 月時点の指数プロファイルでは、ポルトガル国債 17 銘柄 (額面残高 1,450 億ユーロ) が WGBI に適格であり、これは時価加重ベースで 0.61% のウェイトとなりました。

ギリシャは、2010 年 7 月に信用格付けが下がったため、WGBI から除外され、現在の格付けは BBB-で、WGBI の組み入れ開始基準である A- を下回っているため、引き続き WGBIからは除外されています。

南アフリカは 2012 年 10 月に WGBI に組み入れられたが、ポルトガルやギリシャと同様に、信用格付けが低下したため、2020 年 5 月に WGBI から除外されました (現在の格付けは BB-/Ba2)。

 

1. Celebrating 40 years of the FTSE 100 Index (sharepoint.com)

2. How we built a better US equity benchmark - 40 years of the Russell US Indexes (lseg.com)

3. WGBI inclusion confirms China’s arrival on global bond stage | LSEG

4. FTSE 債券インデックスのトータル・リターン計算における現金債投資の変更。research.ftserussell.com/products/index-notices/home/getnotice/?id=2606709

5. Federal Funds Effective Rate (FEDFUNDS) | FRED | St. Louis Fed (stlouisfed.org)

6. FTSE Fixed Income Indices: history of ground rule updates (lseg.com)

7. Fixed Income Country Classification | LSEG

8. fixed-income-country-classification-march-2024-results.pdf (lseg.com)

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