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金融市場インフラ、健全性およびイノベーション:ボランタリー・クレジット市場の規模拡大に向けて

Adrian Rimmer

Director, Sustainable Finance & Investment, Capital Markets, LSEG

ボランタリー・クレジット市場 (VCM) は、世界経済のネット・ゼロ目標の達成において重要な役割を果たすことが可能です。これにより、企業は脱炭素化に伴い、継続的に排出される温室効果ガスを相殺することが可能となり、排出を回避、削減、または除去し、商業的に成立させるためにカーボン・クレジット収入が必要となる気候変動プロジェクトや技術に不可欠な資金を提供することができます。

しかし、実際にそうした役割を果たすためには、ボランタリー・クレジット市場の規模拡大が必要です。ボランタリー・クレジット市場は、潜在性が高い市場ではあるものの、現状では規模が小さく、投資適格のインフラが整っておらず、投資家による理解も不十分であるという、需給両面での課題に直面しています。このため、カーボン・クレジット・プロジェクトの開発者にとって資金調達が難しい状況にあります。

一方、カーボン・クレジットを購入した企業は、不透明で不安定な価格設定を伴う複雑で規制のないセカンダリー市場への対応に苦慮したり、プロジェクトに直接投資することにより、専門以外の分野で大きなリスクを一心に負う可能性に直面しています。

こうした課題に対応するために、LSEG は買い手や投資家のエンゲージメントに対する障壁を軽減する一連のソリューションをローンチしました。LSEG は、市場の健全性と発展に尽力している金融業界や法人企業のビジネス・パートナーと協働しています。信頼性の高い金融市場インフラのプロバイダーとして、当社は、ボランタリー・クレジット市場によりアクセスしやすくし、デューデリジェンスを可能にし、この成長する資産クラスに公開市場のガバナンスをもたらすためのツールとサービスの提供が可能です。

ボランタリー・クレジット市場拡大の課題と可能性

市場コメンテーターは、ボランタリー・クレジット市場 (VCM) の目覚ましい成長を見込んでいます。LSEG コモディティ・リサーチのデータによると、2022 年の総取引額は約 20 億ポンドに達しました。最近のBarclays のレポート (英語) では、ボランタリー・クレジット市場規模は 2030 年までに 2,500 億ドル、2050 年までに 1.5 兆ドルに拡大する可能性があると予測しています。数年前、ボランタリー・クレジット市場の拡大を目的としたタスクフォースの設置にあたり、前イングランド銀行総裁のマーク・カーニー氏は、「年間 500 億ドル~ 1,000 億ドル規模の市場」(英語) が排出量削減に貢献するためには「不可欠」であると述べていました。  

ボランタリー・クレジット市場が成長の大きな可能性を秘めていることは明らかです。オックスフォード大学 (オックスフォード原則 (英語)) や Science Based Targets イニシアチブ (Beyond Value Chain Mitigation: バリューチェーンを超えた削減 (英語)) を中心とするフレームワークや行動喚起に支えられ、ネット・ゼロへの過程で炭素排出量をオフセットするための企業のカーボン・クレジットに対する需要は膨大です。また、排出量削減の目標達成やカーボン・クレジットを提供するための資金を求めるプロジェクトや国は世界中にいくらでも存在します。

買い手が直面する課題

世界には、事業規模の大小に関わらず、ボランタリー・カーボン・クレジットを積極的に購入している企業があります。一部の企業は、ネット・ゼロへの目標達成に向けて、自社の炭素排出量をすべてオフセットすることを目指しています。また、Voluntary Carbon Markets Initiative Claims Code (英語) に沿って、排出量の一部をオフセットすることを模索している企業も存在します。しかし、これらの買い手の多くは、必要と考えられる量のごくわずかしか購入していません。さらに、すでにボランタリー・クレジット市場で取引している買い手企業が存在する一方で、大多数の企業が、市場に参加していないという現状があります。

買い手が市場参加を躊躇している主な要因は、次の 3 点です。1 つ目は、カーボン・オフセットという取り組みが長期的な性質のものであり、クレジットの供給を長期的に既知の手ごろな価格で確保することが企業にとって難しいことです。大半の企業は、ネット・ゼロに向けた移行の過程が数十年間続いていくことになります。ボランタリー・クレジット市場では価格設定が変動する傾向にあり、流動性が限られており、長期的にクレジットの購入を管理し、ヘッジするツールはほとんどありません。

2 つ目の課題は、買い手がどういうクレジットを購入し、また、どのように調達するのがベストなのかを理解することです。これまでボランタリー・クレジット市場(VCM) についての規制が存在しなかったため、ある種のプロジェクトによる排出量削減に関するモニタリングや計測については、当然、疑問が生じることになります。評価の高い市場基準が存在するものの、それを利用するのは必ずしも容易ではありません。企業は、のちに監査を受けることになるカーボン・クレジットの購入により、財務上の影響はいうまでもなく、当然ながら風評にさらされることを懸念しています。

3 つ目の要因は、進展している規制の状況です。多くの買い手は、将来的に、規制当局が排出量のオフセットをさらに求めてくるだろうと見込んでおり、あるいは許容されるカーボン・オフセットの種類に関する想定が変わる可能性があると予測しています。買い手は、要件が進化してオフセット・ポートフォリオの変更が必要になってくることを懸念しています。

市場アクセスと投資のための新たなソリューション

LSEG が 2022 年に開始したボランタリー・カーボン・マーケット (英語) の指定は、こうした問題への対処に大きく貢献しています。カーボン・クレジットを創出する気候変動緩和プロジェクトに投資する予定の企業や投資ファンドは、ロンドン証券取引所に上場し、ボランタリー・カーボン・マーケットの 指定を申請することができます。これにより機関投資家や法人投資家は知名度と認知度を向上させることになりますが、上場規則・特定の上場企業の適格性および開示基準に従う必要があります。

ボランタリー・カーボン・マーケットの指定は、企業の買い手、プロジェクト開発者、市民社会との緊密な協議に基づいて策定されており、上場事業体に対し、カーボン・クレジットを創出する活動や基準機関の種類、関連する専門知識やリスク管理の実証、資金提供先のプロジェクトに関する継続的な情報開示、より広範な持続可能な開発への影響に関する主張の立証など、定義づけられた適格性基準に従う必要があります。

ボランタリー・カーボン・マーケットの 指定を受けたファンドや企業は、投資家に対して、カーボン・クレジットおよび現金を配当として、あるいは現金の配当の代わりにカーボン・クレジットを配当として提供することが可能です。これにより、オフセット・コミットメントを達成するために、原クレジットへのアクセスを希望する投資家に投資対象が広がります。資金を求める企業やファンドにとっては、ボランタリー・カーボン・マーケットの指定により、投資家層を呼び込める可能性があり、そこから機関投資家やインパクト・インベスターが「殺到する」かもしれません。ロンドン証券取引所に上場していることで、投資ポートフォリオに新しい案件を追加取得する際に、公開市場を通じた追加の資金調達が可能となります。

企業にとって、株式を上場することは、カーボン・クレジットにアクセスするための新しい革新的な方法を得る手段となります。これには、専門家が管理するプロジェクトへの投資機会、独立した取締役会による監督に加えて、規制当局による監視、そして企業が進化するニーズに応じて保有を調整できる株式のセカンダリー市場での流動性などを組み合わせることで、多くの独自のメリットがあります。これにより、予測されるクレジットの流動性を確保でき、株式上場とその後の株価を通じて日々の評価額で将来のカーボン資産をバランスシート上で保有することができます。これはカーボン・エクスポージャーの調達と管理をトレジャリー部門あるいは財務部門に移行したいと考える企業のニーズに応えるものです。

LSEG の ボランタリー・カーボン・マーケットの 指定が買い手と売り手の双方にメリットをもたらすことは、株式会社みずほフィナンシャルグループと LSEG が、広範にわたる戦略的パートナーシップの一環として、カーボン・クレジット市場の成長を支援するための連携開始について合意した理由の 1 つです。また、その連携には、サステナブル・ファイナンスとサステナブル投資への注力も含まれています。

〈みずほ〉と LSEG は、先日、〈みずほ〉のお客さまが、ロンドン証券取引所のボランタリー・カーボン・マーケットの 指定を受けた上場投資ファンドおよび上場企業へアクセスする機会を実現すべくともに取り組んでいく、他、連携開始すると発表しました。さらに、〈みずほ〉と LSEG は、〈みずほ〉のお客さまへのカーボン・クレジット・マーケットに関する情報提供などでも連携していきます。

ボランタリー市場、国際政策主導型市場、コンプライアンス市場の集約

ボランタリー市場が、パリ協定第 6 条に基づいて創設された市場を含め、規制された政策主導型市場に集約されるのか、集約されるとすればどのような形になるのかについては、依然として明確ではありません。これが実現すれば、排出量削減のための国際取引が可能になりますが、昨年 12 月の国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28) で合意することができなかったため、これはまだ確定していません。

しかし、主要国がカーボン・プライシング政策を導入する中、多くの国が ボランタリー・クレジット市場の基準とクレジットを採用しています。こうした動きは、ブラジル、インドネシア、南アフリカなどの新興国、および国際取引を試験的に導入している日本やスイスなどの先進国で見られています。

それが世界の主要なコンプライアンス市場をすべてカバーしている LSEG のグローバル・カーボン・リサーチ・チームが ボランタリー・クレジット市場専門のリサーチを提供している理由の 1 つです。また、当社はカーボン・クレジットに関する膨大なデータ・プールを確立しており、LSEG Workspace のユーザーがプロジェクトやクレジット供給について詳細に分析することのできる分析ツールを提供しています。

当社は、ボランタリー市場とコンプライアンス市場は双方に利益をもたらす形で集約しつつあると考えています。ボランタリー・クレジット・マーケットの指定を受けた企業やファンド向けの 当社の資金調達機能、リサーチやデータ・ツールはすべて、ネット・ゼロ目標達成を目指す政策と、投資案件の気候変動リスクを可能な限り迅速に軽減しようとする企業の強い意欲とのギャップを埋める役割を担っています。

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