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UBO コンプライアンスを解説: 透明性とプライバシーの相反

  • UBO コンプライアンスの目標達成に向けた金融機関への圧力が高まっている
  • 公開登録簿の運用開始は、コンプライアンス・プロセスに役立つどころか、妨げになる可能性がある
  • 非公開のサードパーティ・データベースは今後も重要な役割を果たすことになるだろう

UBO (実質的支配者) コンプライアンスに関する規制当局の圧力は高まり続けていますが、その理由を理解するのは難しいことではありません。

機密情報の漏洩が続いていることは、文書に記載された人々を困惑させるだけでなく、汚職撲滅を積極的に提唱する当局をも困惑させています。

政策立案者はここ数年の間、腐敗防止策を精力的に推し進め、不正な資金の流れを断とうとしてきました。その結果、変化の激しい規制環境が生まれ、コンプライアンス部門は、不足するスキルを補い、関連するソフトウェアに多額の投資を行う必要性に迫られています。汚職事件の 2/3 (70%) 以上が、企業の透明性の欠如を要因として指摘されているため、透明性は腐敗防止策にとって欠かせない課題となっているのは事実です。しかし、機密情報の漏洩が後を絶たないことは、規制が拡大しているにもかかわらず、財務の透明性が極端に低いことを示しています。 

今日では、あらゆる UBO の詳細を適切に把握し、精査することが不正な資金の流れを断つために欠かせない要素となっています。

今後、UBO に関する規制がさらに拡大するにしたがい、ますますコンプライアンス部門への圧力が高まり、業務が複雑化するものと思われます。UBO の詳細情報の調査、とりわけ、積極的に真の身元を隠す組織や個人の調査は困難をきわめ、時間を要する可能性があります。

登録簿の推進は正しいアプローチか?

EU では、第 4 次および第 5 次マネーロンダリング防止指令によって、EU 内で設立された企業などの法人に関する UBO の登録簿の一元管理が加盟国に義務付けられました。理論上、こうした登録簿は UBO コンプライアンスのプロセスを簡素化し、財務の透明性を高め、個人や企業による不正行為の機会を抑制するはずです。指令に従って公開登録簿を導入し、法人の真の所有者を明らかにする政府の数も増えつつあります。

しかし、今度はそうした登録簿へのアクセスが議論の的となっています。

透明性とプライバシーの相反

欧州司法裁判所の裁定によれば、公開登録簿はプライバシー権に抵触しているとの見解が示されています。

同裁判所は最近、UBO情報について、一般公衆がいかなる場合でもアクセス可能な情報にしておくことを EU 加盟国に義務付ける規定は無効であるとの判断を下しました。UBO データへの一般公衆からのアクセスは、欧州基本権憲章が保障する基本的プライバシー権および個人データ保護権を著しく侵害するという見方のようです。

そして EU 加盟国は、UBO 情報の公開時に適切な保護措置を講じるよう指示されました。

そうした決定にもかかわらず、UBO の登録義務は依然として有効なままです。マネーロンダリング対策指令では、EU 加盟国は必要に応じて UBO 情報を保護できると定めているため、裁量の余地が多少認められています。

米国でも同様の論争が起きており、FinCEN 規則案では、銀行が内部、または関連会社、海外部門を問わず、どこであろうと登録情報を提供することを防ごうとしています。

透明性とプライバシーの適切なバランスの模索は、登録簿の公開を遅らせており、継続的な課題であることは間違いありません。

基準/規範の設定

登録簿に記載されたいかなる情報も、検証されない限り意味を成しませんが、現在はその検証の基準や規範が不明瞭で一貫性を欠いているような状態です。米下院金融委員会の国家安全保障、不正金融、国際金融機関に関する小委員会 (the US Subcommittee on National Security, Illicit Finance, and International Financial Institutions) において米国銀行協会 (ABA) が行った最近の証言では、不正確な情報や矛盾の多さに対する懸念が浮き彫りになりました。ABAは登録データと協会内のデータに矛盾が生じている場合、そのエラーが解決しないかぎり、コンプライアンス・プロセスを著しく遅らせると説明しています。

機能していない政策による弊害

政策決定プロセスには時間と労力が必要であり、既存の政策の微調整も同様に時間がかかるものです。登録簿のアウトプット改善のために規定を変更するには、相当な時間がかかるかもしれません。ソフトウェア・イノベーション、データ・プライバシー規制の進化、オープン・バンキングの成長によって、将来的には、登録簿の有用性が向上する可能性がある一方で、短期的には、申請プロセスや場合によってはデータ検証より、登録簿の使用がコンプライアンスを妨げるおそれもあります。

コンプライアンス部門にとっては、規制当局の基準を満たすよう調整された、UBOコンプライアンス向けに設計されたサードパーティ独自のデータベースの方が適しているかもしれません。

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