FTSE Russell Insight

FTSE Blossom によるサステナブル債券インデックスの新しい取り組み

Lily Chung

Manager, Fixed Income and Multi-Asset Product Management and Research, APAC

Ian Chen

Associate, Fixed Income and Multi-Asset Product Management and Research, APAC
  • FTSE Blossom Japan 債券インデックス は、トラッキングエラーを最小限に抑えながら、ESG の指標を大幅に改善し、信頼性が高く、パフォーマンスをトラックできる指数を提供します。
  • ESG スコアの低いセクターを除外することで、リスクとリターンのプロファイルが改善されます。
  • このインデックスは、FTSE Blossom 日本株インデックスのメソドロジーと一貫性を保ち、包括的なマルチアセットのサステナブル投資ソリューションを提供します。

サステナブル投資が日本でも増加

2023 年 10 月、責任投資原則[1]  (PRI) 年次総会の基調講演で、岸田文雄首相は日本におけるサステナブル (持続可能) 投資の水準を高めることを表明しました。

岸田首相は、合計 90 兆円の資産を運用する日本の 7 つの公的年金基金が PRI に署名する、と発表しています。この動きは、日本においてサステナブル・ファイナンスへの取り組みを強化し、金融市場全体に関心を広めることを目的としています。この新たな取り組みは、運用資産 200 兆円を有する世界最大の資産保有者である年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF) の先例に倣うもので、GPIF は 2015 年に PRI に署名しており、日本における責任投資原則の先例を築いています。

国連の支援により 2006 年に発足した PRI は、責任ある投資のための世界的な取り組みを促進しています。PRI に署名することにより、環境、社会、ガバナンス (すなわちESG) の考慮を投資および所有慣行に統合し、その進捗状況を毎年報告するというコミットメントを示します。2010 年から 2023 年の間に、日本の PRI 署名数は 9 から 128 に増加しており (図1参照)、現在は投資顧問 87 社、アセットオーナー 29 社、サービスプロバイダー 12 社となっており、サステナブル投資の前向きなモメンタムを反映しています。

図 1. 日本における PRI 署名数

図 1 は、2010 年から 2023 年の間に、日本の PRI 署名機関数が 9 から 128 に増加し、現在は 87 の資産運用会社、29 のアセット・オーナー、12 のサービス・プロバイダーで構成されていることを示しています。

出所: ディレクトリ | PRI (unpri.org) (英語). 重要な法的開示事項については免責事項 (英語) をご覧ください。

GPIF は長年にわたり、日本におけるサステナブル投資の推進において極めて重要な役割を果たしてきました。ESG の要因が長期的な投資パフォーマンスに与える影響を認識し、GPIF はさまざまな資産クラスで ESG のインテグレーションに取り組んできました。GPIFは株式の分野で、2017 年に FTSE Blossom Japan Index、2022 年に FTSE Blossom Japan Sector Relative Index をそれぞれ採用し、現在は 9 つの国内および海外の株式 ESG 指数をベンチマークとして採用しています(図 2にBlossomの2つのESG指数の概要を示します)。債券分野では、各地域の開発銀行や政府金融機関と協力して、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドに投資しています。さらに、オルタナティブ投資において、GPIF は資産運用会社の選定および選定後のモニタリングプロセスに ESG 要素を組み込んでいます。

図 2. FTSE Blossom Japan Index と FTSE Blossom Japan Sector Relative Index の手法

FTSE Blossom Japan Index  FTSE Blossom Japan Sector Relative Index
日本企業の株式約 200 銘柄 日本企業の株式約 500 銘柄

業種ニュートラル
(業種分類によるアクティブ・ウェイトなし)
セクター中立アプローチ (セクター分類によるアクティブ・ウェイトなし) 

ESG スコア 3.3 以上の日本企業を選定

 

ESG スコア 2.0 以上かつ各セクターの上位 50% 以内の日本企業を選定

2017 年以来、市場参加者と企業がスチュワードシップとエンゲージメントの取り組みに活用できる明確な ESG 基準を表示

 

TPI 経営品質スコアで企業の気候ガバナンスと気候変動への取り組みを評価し、低炭素経済への気候移行をサポート

出所: FTSE Russell。重要な法的開示事項については、免責事項をご覧ください。

機関投資家や個人投資家によるサステナブル投資への需要が高まる中、日本ではこの分野の投信や上場投信 (ETF) の利用が増えています。2019 年から 2023 年の間に、日本のサステナブル投資ファンドの数は 90 程度から 260 以上に増加し、これらのファンドの総資産額は 8 倍近くに拡大して、5,160 億円から 4 兆円に増加しました (図 3 参照)。

国内外の資産運用会社は、こうした需要に応えて、さまざまなサステナブル投資商品を導入してきましたが、依然として株式ファンドがその中心となっています。日本では 267 のサステナブル投資ファンドのうち、218 が株式ファンドで、2024 年 1 月末時点でファンドの純資産総額の 90% 以上を占めています (図3参照)。ただし、近年はサステナブル債券ファンドやマルチアセット・ファンドの数が増加しており、日本におけるサステナブル投資ファンドの選択肢が広がる傾向となっています。

図 3. 日本におけるサステナブルファンドの市場規模推移

図 3 は、日本国内で発行されている 267 のサステナブル・ファンドのうち、218 のファンドが株式ファンドであり、2024 年 1 月末時点のファンドの純資産総額の 90% 以上を占めていることを示しています。

出所: LSEG Data & Analytics、純資産額ベース。重要な法的開示については免責事項をご覧ください

FTSE Blossom Japan 債券インデックスのご紹介

サステナブル投資において債券への需要が高まっているため、弊社は、FTSE Blossom のアプローチを債券にも拡張し、2024 年中に日本の投資家を対象として FTSE Blossom Japan 債券インデックス・シリーズを投入する予定です。このインデックスは、ESG を実践する日本企業が発行した円建て社債のパフォーマンスを測定します。このインデックス・シリーズには以下の 2 つの指数が含まれる予定です。

  • FTSE Blossom Japan 社債インデックス: このインデックスは日本の上場企業を対象として、ガバナンスの観点からスチュワードシップとエンゲージメントを促進し、それによって企業慣行における透明性と説明責任を促進することを目的としています。

これにより、日本の上場会社およびその国内子会社が発行する投資適格の円建て社債をトラックする先駆的なベンチマークとして機能します。この指数の発行体は、FTSE Blossom Japan Sector Relative Indexの採用企業、すなわち、FTSE の ESG スコアが 2.0 以上かつ ESG スコアによるランクで各セクターの上位 50% の企業を抽出しています。さらに、企業の気候ガバナンスと気候変動緩和に向けた取り組みも、Transition Path Initiative [2] (TPI) が公表している経営品質スコアを用いて評価しています。

  • FTSE Blossom Japan ブロード債券インデックス:このインデックスは上場企業が発行した社債に加えて、非公開企業の社債、政府機関債、政府支援債、地方債を含む政府関連セクターを対象として、円建て一般債市場のより包括的なパフォーマンスを測定します。

非公開企業およびおよび政府系セクターは ESG スコア評価の対象外ですが、スコアが付与されていないことは、ESG パフォーマンスが低いことを意味しているのではなく、また、ESG インデックスの除外対象とは考えられていないことに留意することが重要です。弊社はこれらの発行体については中立的な立場を取り、非公開企業と政府関連セクターを含めることで、社債インデックスに伴う潜在的な流動性懸念に対処するだけでなく、より幅広い投資家層にとって実用性を高めることでインデックスにおける市場の包括性を広げています。

弊社では海外企業が発行する社債やモーゲージ証券を追加するなど、資産クラスの拡張を含むカスタム指数を提供できるため、投資家は自分の好みや目的に合ったインデックスのソリューションを利用することができます。

図 4. Blossom 債券インデックスの構造 (数字はウェイト) 

チャート表示: FTSE Blossom Japan Fixed Income Index シリーズの主な目的の 1 つは、ESG パフォーマンスの高い日本の上場企業の発行債券に注目し、ESG 統合をサポートすることです。FTSE Blossom Japan Index は、親インデックス (ESG を考慮しない Japan All Cap Fixed Income index、図 4 参照) と比較して、FTSE Blossom Japan Sector Relative Equity Index (ESG ランキングが各セクターの上位 50%、ESG スコア 2.0 以上) の適格基準を満たさない 16 発行体の 123 銘柄の債券を除外しています。

1 FTSE 日本社債インデックスは FTSE 日本ブロード債券インデックス (JPBBI) のサブセットです。この指数には日本市場で発行された円建て社債が含まれます。

2  FTSE Japan All Cap 社債インデックスは、FTSE Japan All Cap index (株式指数) に含まれる日本の上場企業およびその子会社が日本の債券市場で発行した円建て社債を組み入れています。

FTSE Blossom Japan 債券インデックス・シリーズの主な目的は、より高い ESG パフォーマンスの日本の上場企業が発行する債券に焦点を当て、ESG インテグレーションを支援することです。親指数である FTSE Japan All Cap 債券インデックス (ESGを考慮していない債券指数、図 4 参照) と比較して FTSE Blossom Japan 債券インデックスは、FTSE Blossom Japan Sector Relative Index の適格基準を満たさない (すなわち ESG スコアが 2.0 未満あるいは下位 50% に属する、など) 16 社が発行した 123 銘柄の債券が除外されます。

これらの除外銘柄は、温室効果ガス排出量が多い、TPI 経営品質スコアが低い、あるいは不祥事案件の関与などが原因であり、運輸および電力セクターの企業が中心です。これらの除外銘柄はデュレーションが長かったため、FTSE Blossom Japan 社債インデックスでは、親インデックスと同様の利回りを維持しながらもデュレーションはわずかに短期化され、平均クーポン (利率) も低下しています。インデックスの時価総額ウェイトは親インデックスの 91% であり、表1の指数プロファイルに示すように、全体的なリスク・プロファイルおよび特性は近似していることが分かります。同様に、FTSE Blossom Japan ブロード債券インデックスは、親インデックスの 96% のウェイトとなっています。実効デュレーションと平均残存期間はベースインデックスよりわずかに上回っていますが、利率と利回りは同等となっています (データはすべて2024年3月プロファイル時点)。

表 1. インデックスのプロファイル比較

 
インデックス 銘柄数  発行体数 ウェイト 平均利率 (%) 平均残存 (年) 最終利回 (%) 実効デュレーション OAS (bps)
Blossom Japan 社債インデックス 888 127 91%* 0.70 5.04 0.99 4.74 64
親指数 (Japan All Cap 社債インデックス) 1,011 143 100% 0.74 5.52 1.00 5.02 64
Blossom Japan ブロード社債インデックス 2,373 183 96%* 0.98 13.29 0.92 11.68 5
親指数 (日本ブロード社債インデックス) 2,738 220 100% 0.98 13.07 0.92 11.5 6

出所: FTSE Russell、2024年3月現在。重要な法的開示事項については、免責事項をご覧ください。

*BlossomJapan インデックスの市場ウェイト・パーセンテージは、それぞれの親指数と対比のウェイトを指します。

このように特性が似ていることを考慮すると、FTSE Blossom Japan 債券インデックスは、親インデックスとのトラッキングエラーが低くなることが予想されます。

2018 年 6 月から 2024 年 3 月までの月次リターンの差の最大値は、FTSE Blossom Japan 社債インデックスでは0.06%、FTSE Blossom Japan ブロード債券インデックスでは 0.05% でした (図 5 参照)。社債において ESG スコアの向上は必ずしもパフォーマンスの向上を意味するものではありませんが、社債市場全体が低迷したときに FTSE Blossom Japan 社債インデックスはプラスの超過リターンを記録しています。

図 5. パフォーマンスの比較 (円ベース)

図 5 は、2018 年 6 月から 2024 年 3 月までの最大月次リターン差が、FTSE Blossom Japan Corporate Bond Index では 0.06%、FTSE Blossom Japan Broad Bond Index では 0.05% であったことを示しています。

出所: FTSE Russell (2018年6月から 2024年3月) 。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。重要な法的開示事項については免責事項をご覧ください。

図 5 は、2018 年 6 月から 2024 年 3 月までの最大月次リターン差が、FTSE Blossom Japan Corporate Bond Index では 0.06%、FTSE Blossom Japan Broad Bond Index では 0.05% であったことを示しています。

出所: FTSE Russell (2018年6月から 2024年3月) 。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。重要な法的開示事項については免責事項をご覧ください。

同期間に、FTSE Blossom Japan Corporate Bond Index は、年換算リターンが 5bp 改善、ボラティリティが 7bp 低下、シャープレシオが +0.05 改善、最大ドローダウンが縮小するなど、親インデックスと比較して全体的にアウトパフォームしました (表 2 参照)。ESG スコアが低いセクターや問題視される事業活動への関与がある企業を除外することで、リスクを軽減し、全体的なリスク/リターンのプロファイルを強化しながら、ポジティブ・インパクト投資を促進しました。

FTSE Blossom Broad Bond Index は、同期間に親インデックスをわずかにアンダーパフォームしましたが、これは、日本債券市場で最もパフォーマンスが高いセクターである外国発行体を除外したことによります (FTSE Blossom Broad Bond Index は日本の上場企業を対象としている)。

表 2. パフォーマンス統計

パフォーマンス統計 Blossom Japan Corporate Bond Index 親インデックス – Japan All Cap Corporate Bond Index Blossom Japan Broad Bond Index 親インデックス – Japan Broad Bond Index
年換算リターン 0.07% 0.02 -1.02% -1.00%
年換算ボラティリティ 1.13% 1.20% 3.01% 2.94%
シャープ レシオ 0 0.01 -34% -0.34
ソルティノ レシオ 0 0.02 -0.53 -0.53
カルマー レシオ 0 0.01 -8% -0.08
% プラスとなった月 50.72% 53.62% 44.93% 44.93%
最大月次リターン 0.96% 1.00% 2.61% 2.56%
最小月次リターン -1.19% -1.23% -2.08% -2.04%
最大ドローダウン -2.96% -3.34% -12.47% -12.19%
トラッキング・エラー (親インデックスとの比較) 0.09% - 0.06% -

出所: FTSE Russell。2018 年 6 月から 2023 年 10 月までのデータ。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。重要な法的開示事項については、免責事項をご覧ください。

この除外により、ESG スコア (3.76 対 3.59) と環境、社会、ガバナンスの各ピラーのスコアが大幅に改善されています。さらに、TPI 経営品質スコアも 3.32 から 3.38 に上昇しています。

表 3. ESG スコアの改善

ESG 超過スコア Blossom Japan 社債インデックス 親指数 (Japan All Cap 社債インデックス) Blossom Japan ブロード債券インデックス 親指数 (日本ブロード債券インデックス)
ESG スコア  3.76 3.59 3.76 3.59
E スコア 3.66 3.52 3.66 3.52
S スコア 3.72 3.49 3.72 3.49
G スコア 3.93 3.79 3.93 3.79
TPI MQ 3.38 3.32 3.38 3.32
データ・カバレッジ 100.0% 100.0% 6.5% 6.9%

Blossom Japan ブロード債券インデックスには、ESG データの対象外となる非上場企業と政府関連セクターがどちらも含まれているため、データのカバレッジが低くなっています。データの欠如は必ずしも  ESG パフォーマンスの低下を意味するものではなく、また自動的に ESG 指数から除外されるものではありません。FTSE は社債に限定することで顕在化する潜在的な流動性の懸念に対処しながら、非上場企業セクターと政府関連セクターを含めることで中立的な立場を取っています。

出所: FTSE Russell (2024年3月現在) 過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。重要な法的開示事項については免責事項をご覧ください。

結論

FTSE Blossom Japan 債券インデックスは ESG インテグレーションを目的として、収益を損なうことなく企業におけるサステナビリティ・パフォーマンスの実践と改善を支援します。過去のリターンに基づくと、FTSE Blossom インデックスの手法は、それぞれの親インデックスに対するトラッキングエラーを最小限に抑えながら、ESG の指標が大幅に改善されることを示しています。さらに、FTSE Blossom Japan 株式インデックスの手法と整合しているため、投資家はマルチアセットのサステナブル投資戦略に ESG インテグレーションのアプローチを適用できます。

日本が持続可能な未来への道を歩み始める中、FTSE Japan Blossom 債券インデックスのような革新的な指数は、金融市場に前向きな変化をもたらすことを目指します。金融の力を活用して環境、社会、ガバナンスに良い結果をもたらすことで、私たちはより持続可能で回復力のある未来への道を切り開きます。

投資家がサステナブル・ファイナンスの原則を受け入れるにつれて、FTSE Russell は、持続可能性とともに成長する世界を形成するための堅牢で透明性の高い投資ソリューションを提供することに尽力しています。FTSE Blossom Japan 債券インデックスは、日本の社債投資家にとって魅力的な新しい選択肢となることが期待されます。

 

1. PRI について | PRI ウェブページ | PRI (unpri.org) (英語) をご覧ください

2. Transition Pathway Initiative (英語) をご覧ください

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