2022 年 6 月 7 日

日本市場における 2050 年ネットゼロへの移行経路

現在、日本企業は、気候変動における物理的リスクに加えて、低炭素経済への移行リスクに直面しています。投資家は高まる気候変動リスクを投資戦略に考慮するとともに、グリーンビジネスへの投資機会への配分を増やす動きを見せています。

世界 130 カ国 [1] 以上、700 社近くの企業が 2050 年までに「カーボンニュートラル」へのコミットメントを発表あるいは「ネットゼロ」目標を採択しています。その中には、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて 2℃ より十分低く保つとともに、1.5℃ に抑える努力を追求するというパリ協定の目標に沿った排出削減目標も含まれています。 日本では 2020 年に当時の菅義偉首相が「2030 年までに温室効果ガス (GHG) 排出量を 2013 年比で 46% 削減し、2050 年までにネットゼロ」を達成することを宣言しました。 

また、東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、2021 年 6 月 11 日から施行しました。 これには 2022 年 4 月に開始されたプライム市場上場企業において気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実という項目が含まれています。

日本では TCFD 提言に準拠した気候リスクの開示が広く採用されてきており、527 の日本企業が TCFD 提言への賛同 を公表しています [2] 。一方で 2050 年までにネットゼロ目標をコミットする日本企業も増えてはいるものの、投資家を 納得させるためには、その目標をどのように達成するかについてより具体的な開示が必要です。企業は温室効果ガス排 出量 (スコープ 1、2、3) の開示、短期・中期・長期削減目標の開示、経営戦略への組み込み、取締役の役割と責任な どを明確にする必要があります。こうした気候変動に対するリスク管理の状況は、企業やセクターによってまちまちで あり、特に気候変動に大きな影響を与える炭素集約型産業の企業における管理状況やその経営のクオリティは、投資家 にとって大きな関心事項となっています。

しかし、2021 年現在、日本の電力供給の半分以上は依然として化石燃料に依存しており、電力の 31.7% が LNG から 、26.5% が石炭から供給されています [3] 。非電力部門 (産業、運輸など) における GHG 排出目標も緩やかであること を考えると、2050 年までにネットゼロ目標を達成するためには、大きな構造変化をかなりのスピードで実現する必要 があります。

これらの変化と日本のより広範囲な気候目標を認識し、FTSE Russell と日本取引所グループ (JPX) は 2022 年 4 月、 FTSE JPX ネットゼロ・ジャパン 500 インデックスと FTSE JPX ネットゼロ・ジャパン 200 インデックスの算出を共 同で開始しました。FTSE JPX ネットゼロ・ジャパン 500 インデックスは、市場をリードする JPX の TOPIX500 をベ ンチマークとしており、FTSE JPX ネットゼロ・ジャパン 200 インデックスは TOPIX500 における時価総額の上位 200 銘柄をユニバースとしています。またインデックスは FTSE Russell 独自のターゲット・エクスポージャー手法を 用いて、投資家と日本市場の参加者が次の事が行えるように設計されています。

  • 炭素排出量と化石燃料埋蔵量の定量的な管理を含む、気候変動リスクに関連する考慮事項の統合と実施
  • グリーン経済における新たな事業活動を含む、低炭素経済への移行に伴う機会の獲得
  • Transition Pathway Initiative (TPI) の経営品質とカーボンパフォーマンスのデータを使用した、ネットゼ ロ移行目標の軌道に沿った企業に対する投資エクスポージャーの増加

両インデックスのメソドロジーは、EU ベンチマーク規則に定められた、気候移行ベンチマーク (CTB) の要件に準拠 しており、炭素エクスポージャーを “ネットゼロ“ への移行経路に合わせるため、ベースとなるベンチマークと比較し て炭素排出量 (原単位) を常時 30% 削減、かつ前年比で毎年 7% 削減します。 

FTSE Russell と Transition Pathway Initiative (TPI) のデータとインデックス計算方法は、企業の気候変動管理の ための透明性のある開示ベースのフレームワークと明確な基準を提供し、気候変動に関する投資家のスチュワードシッ プ活動をサポートするよう設計されています。

[1] Hale, T. et al (2021), Net Zero Tracker. Energy and Climate Intelligence Unit, Data-Driven EnviroLab, NewClimate Institute, Oxford Net Zero. https://www.zerotracker.net/ (英語)

[2] As at December 2021. The Task Force on Climate-related Financial Disclosures 2021 Status Report.
https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P141021-1.pdf (英語) 

[3] 環境エネルギー政策研究所 (ISEP) 【速報】2021 年(暦年)の自然エネルギー電力の割合 (2022 年4月) https://www.isep.or.jp/archives/library/13774